Cembaloの音色

2007/12/07 (金) 2:22

シナリオ訂正中で

2段のチェンバロは、レジスターを切り替えると何とおりの音色になりますか?

牧野由起子

 

2007/12/06 (木) 16:48

音列のお話

チェンバロの音色はそれぞれの弦によって作られます。

それぞれの弦はレジスターと呼ばれる小さなレバー(後世では、ペダル)によって弦を切り替えます。一段の鍵盤には一列か、二列の弦が割り当てられます。チェンバロにはスピネットと呼ばれる小型のチェンバロと、一段の鍵盤を持つチェンバロ、二段の鍵盤を持つ大型チェンバロなどがあります。

スピネット

 

勿論、スピネットは小型が売りなので、一段鍵盤で一列が基本ですが、一段鍵盤で二列のスピネットも一般的です。

音列は標準の音の高さが出るものを8′(8フィートと呼びます。)標準よりもオクターブ高い音が出る音列を4′(4フィート)と呼びます。

 

原則としては、バロック時代の二段鍵盤のチェンバロは8+8+4の音列です。

蛇足ですが、どんな楽器でも、低音へ音を伸ばしていくのは楽器が等比級数的に大型化していくので、技術的にも材木の張力の関係でも困難が伴います。バロック時代のチェンバロが16フィートを用いる事は長年の弦の張力に耐えて、安定したバランスを保つ事は、まだ不可能でした。

と言う事で、標準のバロックチェンバロでは上一列8フィート、下二列4+8フィートの三列とリュートのregisterになります。

モダン使用のチェンバロでは、上二列の4+8フィートと下鍵盤の8+16フィートにリュートのregisterとなります。

バロック使用の楽器では、一段のチェンバロでも、私達の教室の(ルッカース・モデルの)チェンバロのように一段で8′+8′の音列は珍しく、一般的には、4+8の二列の方が普通です。それもチェンバロの楽器の全長と張力の関係です。

 

リュート(ラウテ)レジスター

殆どのチェンバロには、リュートというレジスターがあります。リュートという楽器はチェンバロが高価で庶民には手に入らなかった時代のピアノのような楽器として、手軽に演奏されていました。弦の本数がギターよりも圧倒的に多いのと、フレットがチューニング部分で曲げられているために、ぶつぶつした音が出ます。弦の響きを革でダンプして(押さえて)止めることによってリュートのような音を出しています。

 

 

      

 

弦長の事(16フィートの)を除くと、時代が下る事によって徐々に大型のCembaloが出来上がってきたように思われがちですが、驚くべきことに、じつはチェンバロが発明された同時代には、もう既に三段の鍵盤を持つモンスターチェンバロが作られていました!(今日では、三段チェンバロは作られていません。)

 

クリストフォリ製作1703年

 

 

現代のチェンバロ

チェンバロはピアノが世の中に受け入れられるようになって、徐々に衰退していきました。古典派の時代にはもう僅かにモーツアルト等のオペラのレスタティーボに使用されるだけになって、それ以降は偽古典的にオペラなどのレスタティーボに使用される以外には全く音楽の世界から姿を消してしまいました。

 

チェンバロを再び私達の元に戻したのは、モシュコフスキー門下生であるワンダ・ランドフスカ (1879-1959)の功績が大だと思われます。(モシュコフスキーはピアノの名手としてヨーゼフ・ホフマンやトーマス・ビーチャムなどの名演奏家の門下生を輩出し、勿論モシュコフスキーのエチュードなどの教則本でその名を知らしめています。)

ランドフスカはチェンバロが衰退した原因を@音量が弱くコンサートなどの大ホールに適さない。Aクレッシェンドなどの強弱が出来ない。等々の幾つかの要因を考え出して、ピアノメーカーであるプレイエル社と共同で、ランドフスカチェンバロと呼ばれるモンスターチェンバロを作り上げました。

自然落下によって弦を引っかくではなく、スプリングにより機械的に弦をはじく事によって強い音量を出す・・、とか胴体に鉄骨を用いることによって、強い張力に耐え得るようにする事によっても、より強い音量を出す事が可能となりました。

その他はクレッシェンドやデクレッシェンドなども出来るように改良し、7本のペダルを使用することで曲の途中ですら音色を変化させる事が出来るという、正にお化けチェンバロです。

というわけで現代最大のモンスターチェンバロと呼ばれるものはプレイエル社製のランドフスカチェンバロでしょう。

 

                             

                           プレイエル社製のランドフスカ・チェンバロ     

ランドフスカの功績によってと、ビバルディの四季などの大ブームによってのバロック音楽ブームによって、チェンバロの良さが再認識されるに至って多くのメーカーによって再びチェンバロが製作されるようになってきました。パイプ・オルガンのように重厚な音を出すために新たに追加された16フィートの音列を持ち強い音量を出すために機械アクションで弦を強い力ではじくための機構とかの、基本的にはランドフスカの考えた改良点を踏襲した4+8+8+16の機械アクションによるチェンバロで、ヘルムート ヴァルヒャの愛用するアンマー社のチェンバロやノイペルト社のモダンチェンバロと呼ばれるものが多数作られました。

 

ランドフスカが活躍を始めた頃の20世紀の初頭の頃はバロック音楽自体も殆ど知られていなくって、古楽器に対しての考え方も、珍妙なものでした。かの有名なシュバイツアー博士の論文や、アインシュタインの論文も古楽器に対しての考え方は、今日では考えられないぐらい奇妙でおかしいものです。その頃であったとしても、博物館などに行けば、バロック時代の楽器を目にすることは出来たとは思いますが、そういった時代考証をすることもなしに、風聞だけで論文が書かれていて、それが音楽社会の通年とされてきました。

(現に私達の大学時代も、そういったゆがめられたバロックの常識を正しい正当なものとして習ってきたのです。・・・とは言っても、もうそういった考え方が、今日に至っても正統な考え方として、音楽大学などのピアノの先生方は一度定番になってしまった、そういった間違えた古い時代の解釈によるBachなどのバロックの作曲家達の奏法などを、いまだに正しいものとして、音楽大学の生徒達に指導していますが。)

 

ランドフスカのそういった活動は確かに現代にバロックや古典の再認識をさせるための原動力になってきました。しかし、20世紀も後半に差し掛かって、いろいろなbaroque音楽の名曲が発掘されるにしたがって、現代的に解釈されて演奏されたバロック音楽に対しての疑問も起こってきました。

1960年代になって、レオンハルトやアルノンクール等のチェンバリスト達が緻密な考証を行ってきました。

そして音楽博物館に残っている古楽器が復元され、演奏可能なように復元されたり、或いはその設計図等が世界中のチェンバロ製作者達にコピーされるに伴って、バロックチェンバロの音色や音量だけではなく、バロック時代当時に、その楽器がどのように演奏されていたのか、という楽器の奏法も次第に分かるようになって来ました。

そういった時流に伴って、baroque時代の名人と呼ばれたチェンバロ製作者達のバロックチェンバロが復元され、そのコピーが一般にも販売されるようになって、音量大きくするために失った音色の美しさなどのいろいろな改良点が、逆にそのために古楽器の良さを無くすものとして反省され、最終的にはその大ホールでは届き得ない音量さえ、(バロック・ヴァイオリンなども復元されるようになって、他の楽器との)音量だけではなく、音色のバランスも、バロックバイオリンやビオラ・ダ・ガンバなどとのアンサンブルが、バロックチェンバロでは整合性が取れている(非常に音が溶け合ってバランスが良いという)ことが分かりました。

と言う事で、今日ではもう既にノイペルト社やランドフスカ・モデルのような現代のモンスター・チェンバロではなくって、古楽器を復元したルッカースやグジョンのモデルによるバロック・チェンバロを復元した楽器が音楽界の主流になろうとしています。