右上の小型のミキサーは、教室所有のmixerです。この他にも、もう一機種似たような小型のmixerがあります。小型のおもちゃのようなmixerであったとしても、基本的な操作や用語を憶えるにはとてもよいと思います。
教室では、模範演奏のtapeを作るのに、member同士の時間調整が上手く行かず、なかなか模範演奏のtapeを作って子供達に渡す事が出来ない・・という事がよくありました。
という事で、一人ででも、Quartettぐらいまでは出来るように・・・、とか、Piano伴奏を先に入れておいて、後で時間が出来た時にviolinのpartを録音するとかいう、離れ業をするために、小型のmixerを2台、3台と購入しました。

また、江古田に事務所を構えていた時には、近場の音楽大学の卒業生が、就職の紹介をしてもらおうと、江古田に訪ねて来ることもありました。

多分、テレビのドラマかでmixerの仕事のお話があったのでしょうか??大学の卒業生が、私を訪ねて来て、「mixerになりたいのだけど紹介してもらえませんか?」という相談を受けました。当時は、未だ放送大学のような所もなかったので、proのmixerに弟子入りするか・・しか、なかったのですし、先ず、女の子のmixerは現実的に一人もいませんでした。全くの男の職業だったのですよ。
そういった説明をしながら、ふと、「この子は、mixerという職業がどんなものか、知っているのだろうか?」と、疑問に思って、このおもちゃのようなmixerを出して来て、色々と常識的な質問をしてみました。「このスイッチの名前は?」「このスライドをさせるスイッチはなんて言うの?」しかし、その質問の何一つにも、答える事が出来なかったのですよ。
「どうしても、mixerになりたかったら、このmixerのおもちゃを買って来て、mixingのための、基本の操作と名前だけは、覚えて来なさい。」
「そうしたら、紹介してあげるから・・・。」と言ったのですが、その女子大生が教室に来る事は、二度とありませんでした。


さて、冒頭の日活studioの大型のmixerですが、上の写真の大型のmixerを持っているスタジオを借りる場合はスタジオ代やミキサー代(この場合は人です。)込みで1時間100万円ぐらいはします。オケのスタジオとしては決して高い方ではありません。(キーの押し間違いではないですよ!10分延長して10万追加した事もあります。勿論、これは、proの録音の話なのですから。)

映画や放送の番組に音楽を付ける事をする専門の演奏家の人達がいます。こういった人達の事をstudio・musicianといいます。専門職です。
音楽のproのplayerとして生きていきたいのなら、スタジオ仕事でやってはいけないことは、練習不足が原因で、時間内に録音できない・・と、いう不足の事態を招く事です。
まあ!どんな職業についたとしても、それは当たり前のことですけどね・・・。
録音が伸びてしまうと予算不足になって、CDそのものが発売できなくなってしまいます。(プロの場合ですけどね。)

模範演奏は出来れば名演奏家の優れた演奏が良いのですが、教室で使用する曲の大半はCDで売られている事は稀で、それどころかレコーディングさえされたことが無い曲が殆どなのです。
また、運良くそういったCDがあったとしても、proの演奏では、演奏しているtempoがあまりにも速すぎたりするために、子供達がその曲を、自分の貰った曲ではなく、別の曲として感じてしまうこともあります。
そう言った諸々の理由から、先生達は可愛い生徒のために、せっせと模範演奏のCD作りをしなければなりません。
教室で模範演奏のテープ(今ではCDになってしまいましたが)を録音するときはDATなどに一回で録音できれば良いのですが、violinやPianoのsoloの場合は兎も角としても、大人数が必要な、トリオやカルテットなどの曲を録音する場合では、演奏者、全員が揃って録音できる機会(時間)はまずといって取れません。
そういった場合にもミキサーは威力を発揮します。
但し、安い一般用のミキサーの場合、購入する人は殆んどがnewmusic等のポピュラーを演奏するセミ・アマの人達でしょうね。
クラシックの人達と違って、popularの人達は、生音を使用することはあまりありません。
キーボードやシンセ等、殆んどが電子楽器です。
その為に、ボーカルマイクの端子以外には(ボーカルマイクはダイナミックマイクです。)生取り用のコンデンサーマイクの端子は付いていないのが殆んどです。
ですから、クラシックの分野の人達が録音する場合には、ある程度の出費は覚悟してコンデンサーマイクの入力端子を持っているミキサーを買わねばなりません。(コンデンサーマイクの端子が無い安いタイプのものは2万円ぐらいからありますが、カノン(標準)のマイク端子を持つmixerは、底なしに高価なものになります。)
いつも何気なく子供に演奏してきかせている曲も、CDに録音してとなると緊張するだけでは済みませんね。
譜面を見ながら何度も何度もチェックをすると、本当に上手くなります。
プロの演奏家の人達は必然的に上手くなるような日常を過ごしているのですね。

グルミョーというヴァイオリニストがいますが、モーツアルトのソナタで、自分自身でピアノを伴奏しています。
よっぽど伴奏の人と折り合いが悪かったのかな?これも、ミキサーのなせる業です。

往年(20世紀前半)の大家達にとって録音は決して好ましい作業ではありませんでした。
生の音に比べても全然別世界だしね。
確かに竹の針で真空管のアンプの音は郷愁をそそられるものがあります。
しかしそれはあくまでレコードマニアの世界で決して実際のコンサートで聴かれる音ではありませんでした。
又、録音技術もお粗末なもので、とても演奏家たちが求めている理想の音を再現するものではありませんでした。
当時のレコードプレーヤーから流れてくる音は、あくまでその音を聴きながら本当のステージの音や演奏を思い巡らすものであったのです。

蝋管から始まった録音の技術はアナログからデジタルへとわずか100年の間に目覚しい進歩を遂げました。
録音の事だけでいうと、どんな演奏家からとしても是が否を問われることもなくなったと思われます。
しかしまだ問題が残るとすれば再生のときのスピーカーの問題でしょう。
その部分についてはきっと新しい革新的な再生のシステムを待たなければならないのかもしれません。

ということで往年の演奏家に「やっぱり生音じゃあなければ・・」と言われていた録音も。
カラヤンを初めとして、今日日、録音による演奏を否定する演奏家はいなくなりました。
逆に演奏会よりもスタジオ録音専門のグレン・グールドのような演奏家すら現れることになりました。

グレン・グールドやカラヤンのような録音のノウハウを知り抜いた演奏家達は同時にミキシング録りの名手でもあった。(小節ごとに録音したり、パート別に録音したりもした。

往年の名演奏家の中にはそういった録り方を真っ向から否定して「演奏によって引き起こされる情感は二度と同じものは無い。」といって一回一発録り以外の録音を否定する人も多かった。
確かに感情に任せたロマン派の演奏はそのとおりかもしれない。
しかし、そういった演奏は反対に気分が乗らなければ全くつまらない演奏をしてしまってもよいと言うことを肯定する結果を生み出す危険性も持っている。
私はプロと言うものはいつ何時デモ水準以上のものは聞かせてくれるものだと思っている。
わざわざ、遠い所までおいしい蕎麦を食べに来たのに、「今日は気分が乗らないから店は休みです。」とか、不味いものを食べさせられてもたまったものじゃないからね。



               
ミキサーといっても、お料理用のミキサーのことではありません。かと言って左の写真のような大スタジオの(オーケストラの入るスタジオです。)ミキサーでもありません。一般にはミキサーは広い部屋を一つつぶしてやっと機材が置けるというイメージで、事実私の友人達もミキシングのために家を一軒建てたりしています。そんな本格的なものと違って、教室にはおもちゃのようなミキサーが数台あります。おもちゃと言ってもセットでそろえると数十万位は掛かります。
    ミキサーのお話し