よく「ピアノを買いたいのですが、どんなピアノを買えば良いのですか?」と相談を受ける事があります。
残念ながらその御相談にお答えする事は難しく、「近所の楽器屋さんで、尋ねられたら?」という風に答える事が殆んどです。
しかし、「何かしら目安となるようなアドバイスがあげられれば」という意見を先生方やご父兄の方から受けて、心に浮かぶよしなし事を書くことにしました。
ピアノ購入の一番の条件は言うまでも無く、『予算は幾らか?』ということでしょう。
中古はありなのか、希望のメーカーがあるのか?部屋のスペースは?音出しの時間帯は?そういったことで結構ご希望の楽器が絞り込まれてきます。
よく受けるご質問の中に、アップライト・ピアノとグランド・ピアノに関することがあります。「アップライト・ピアノとグランド・ピアノでは何が違うのですか?」
アップライトとグランドピアノでは機能的に全くアクションの構造が違うので、音大受験を目指したり、ある程度専門的にピアノを学習したいのであれば、グランド・ピアノを最初から購入されることをお勧めしております。しかしながら、ご近所との騒音の問題を心配される場合や、部屋のスペースなどなどそれぞれのご事情で、一概に「どうしたらよい。」といえないのはやむを得ないことです。よいピアノの条件には音量も含まれてしまいます。楽器が高価になればなるほど、音量的にも豊かに(大きく)なるのはいたしかたのないことです。
電子ピアノからアップライトやグランドピアノに 買い替える方の場合、もし部屋のスペースが許されるなら、電子ピアノを廃棄しないでセカンドピアノとしてお持ちになられることをお勧めします。お子様の場合学年が上がると帰宅が遅くなってしまって練習が思うに任せないことがよくあるようなので。せっかくいいピアノを買ってもご近所とのトラブルで弾けなくなっては元も子もありません。部屋の事情が許すなら電子ピアノとピアノの一体型より二台お持ちになることをお勧めします。勿論、スペース的に無理であるとすれば、一体型のアップライト・ピアノをおすすめします。運良く音出しに何の問題もなければ一体型のピアノ自体が必要は無いのでその分良いピアノが手に入ることでしょう。
中古ピアノについては、日本の住宅事情からよく売れるために、アップライトピアノはあまり安くはならないようです。逆に言えば下取りのときは有利ということでもあります。グランドピアノはあまり動きが無いので、非常に良い物が安く手に入るときがあります。いずれにしても信頼のおける業者の方にご相談されて良い出物が出てくるのを待たれるのがよいと思います。
ピアノを選ぶポイントは、何と言っても音色と繊細なアクションです。私個人ではあまり塗装の傷などは気にしません。音楽教室のピアノや音楽大学で弾かれていたピアノなどは、鍵盤やアクションにがたが来ているものがよくあります。本体が非常に良いピアノの場合には、鍵盤やアクションを新品に換えてしまうことも出来ます。変に手間隙かけて修理してもすぐにがたつきが出てしまうし、交換した所でそんなにお金がかかる訳でもないので。
ピアノの音色や鍵盤の重さ、タッチの深さなども調律師にお願いすると、好みに調整してもらえます。
「自分の持っているピアノの音が『きんきんして』嫌だから買い換えたい。」と言っている生徒がいました。「調律師の人に相談してみなさい。それで気に入らなければその時買い替えを考えようね。」とアドバイスしました。後日、「びっくりするぐらいいい音になったよ」その子から報告がありました。
高温多湿の日本の気候はピアノに限らず、楽器にとっては最悪のコンディションです。良い楽器を選ぶことより、楽器のコンディションを持続させることの方がよほど大切で難しいといえます。本当に腕の良い調律師を探すこと、それがピアノの保守管理にとって大切です。
以前、(といってもだいぶ前のことですが)生徒が「先生、いいグランドが欲しい。」といってきました。そこで、「3ヶ月ぐらいかかるけど、いいかい?」と言って調律師の方にお願いして、保存状態の良い安い中古グランドを探してきて、内側のニスを一度完全に剥がして、スタインウェイのニスに塗り替え、レスローの弦を張って、レンナーのアクション、アクションを受ける横の棒もスタインウェイのように波を打たせて、と遊んでしまいました。素晴らしいグランドが超廉価版で出来上がりました。それから音大のピアノ科を卒業した彼女は結婚して地方に行ったのですが、諸事情で自分のグランドを持っていくことが出来ませんでした。何処からそれを聴きつけたのか、現役で演奏活動を続けているピアノの人達が「あのグランドを譲って欲しい。」とチョコチョコ手紙やメールが来るようになって「私はこのグランドを絶対に手離さないわ!」と怒っていました。良いピアノは音楽家にとっていつも憧れである事には変わりませんからね。
まあ、逸れは一つの例として、腕の良い調律師の手にかかると、本当に色々なことができるものです。
ピアノのメーカーは輸入の外国製のものから個人の小さな工場の手作りピアノまで色々なピアノがあります。しかし日本では楽器店は殆んど特約店や直営店のシステムを取っていますから専門家はともかくとして、一般の方がそういったピアノを目にする機会はまずないでしょう。
ピアニストを学ぶ人達の憧れのピアノといえば、ほとんどの人がベーゼンドルファーかスタインウェイのピアノを挙げるのではないでしょうか。もう二十年ぐらいも昔のことになるでしょうか、地方の都市でコンサートホールを作るお手伝いをしていました。やっとホールも出来上がり、やっとピアノを入れる段階に入って、スタインウェイのコンサート・ピアノが舞台にやってきました。弾いてみるとドイツで私が弾いていたスタインウェイと何かが違います。「これハンブルグ・スタインウェイですよね?」色々質問すると、「今は世界中でポピュラーの方が主体的になってきて、以前のバランスや音色では重すぎて、もう売れなくなってしまっているのですよ。」と言われてしまいました。クラッシックはだんだん廃れていくだけなのでしょうかね?
そうそう、重すぎるといえば、私も歳と共に体のあちこちにがたが来て、10年来近くの病院に通っています。その間、何人か主治医の先生が変わったのですが、前の先生は胃腸が専門で、今の先生は心臓が専門です。困ったことに体のあちこちに不調が出てくるのですが、幾ら相談しても専門外の事には興味を示してくれません。その度に病院を替わるのも面倒ですし、困ったことです。医者ならば自分の専門以外の病気のことも少しはアドバイスできればいいのにとは思うのですがね。
ピアノの雑談